大学との共同開発

インシュレータにおける理論の欠如と
理論的説明の必要性

近畿大学工学部 西村公伸教授

現在の研究の発端

『ステレオで3次元立体空間表現なんてありえない!』

1994年4月に近畿大学に赴任し、翌年1995年4月の卒研メンバーにT氏が参加していました。それまで、私もオーディオが好きでアンプやスピーカを自作し、いろいろ聴いてきていました。

そんな折、彼曰く「標準ステレオ再生で左右の音像定位だけでなく、奥行きや高さまで表現できます」。
私は、「そんなはずはない。スピーカは左右にしかないのだから」と言いました。
彼は、「とりあえず、聞いてください」と言って、ターゲットのスピーカースタンド、ロジャースのスピーカー、CD-80を持ってきて実験室にセットし、聞かせました。

アンプは、私自作の2A3のロフチン・ホワイトシングルアンプでしたが、確かにこれまでにはない、音像の前後の差が表現されていました。

こうしたことの経験から、スピーカの下に円錐型のスパイクを置くとか、スパイクの先端に敷くさらに水を入れるなどのちょっとしたことで、表現力が大きく変わる体験をし、この不思議の理由を解明する決意をしたのです。

前社長との出会い

『1997年、初めて東林間のサウンドミネに訪問』

T氏のおかげで立体的再生の可能性を見出した私は、前社長の話を伺い、なるほどと納得しました。
現実の音環境(ステージなど)を、マイクで収録し、それを再生するだけですから、理想的にはそう(3次元表現:遠近・上下・左右の表現)なるのが当たり前といった感じです。

ただ、ではなぜ現実には再生音は平面的でしかないのか?
その原因はどこにあるのか?
また、本当に収録された音源に3次元の音源配置に関する情報が含まれ得るのか?
などの疑問が生じてきます。

前社長は、数多くの実験の末、方向性を見出しておられました。
私は、音響学のこれまでの知識を用いて、これらの疑問に対し、答え(納得できる理論的・科学的説明)を導かねばならないと思いました。

前社長からは、多くの課題を与えて頂き、卒論や修論の課題として採用させていただきました。
その結果、これまで、オカルト的・迷信的に使われてきたオーディオ用の各種アイテムが、実は確固とした理論の下で(良くも悪くも)効果を発揮していることが見えてき始めました。前社長が積み上げてこられた多くの実践が心強いベースとなっています。

KRYNA創業者伊奈龍慶と西村教授

D-PROPの開発

『発想は単純です。2段にすればいいや』

前社長からいただいたアイデアの中に、円錐のスパイクを2段にするとより一層効果が上がるという発想がありました。
2段にすればいいや、というわけですが、2段にすると下側が安定しない。そこで、下側のスパイクを固定するために、カップに入れることとしました。

この試作の試聴をした学生は皆驚き、私もこのすごさに驚嘆しました。
その後、前社長は、スタッフの皆さんと商品性を検討し、再度デザインし直し、ほぼ2年でしょうか、最初のD-PROPが完成したのです。

しかし、前社長は、そこで止まらなかった。慣性力が大きいので止まれなかった?
中に入れる液体を工夫し、ついに現用のスティッキー溶液にたどり着いた。
大学の方では、それに近い性質の物質として、工業化学科の先生にスティッキー溶液の元となるものを紹介され、その調合作業が始まりました。分子量が幅広くあり、どのあたりのものを使えばよいかを探り当てねばなりませんでした。

試行錯誤の末、現在の配合にたどり着きましたが、これがベストというところまではたどり着いていない気はします。まだまだ可能性はあります。

インシュレータにおける理論の欠如と理論的説明の必要性

『私は大学の教員ですので、たんに「作りました」では収まりません』

製品化するのはKRYNAの仕事で、何故そうなるかを理論的に説明するのが私の仕事です。
D-PROPにしろ、また、これまでの各種インシュレータは、そもそもどんな働きをしているのかを明確に説明することができていない現状では、なぜ効果があるかを正確に説明できないわけです。

この業界の方々は、感覚的には、どんな動作か(何が起こっているか)を感じ取っておられるようですが、それを理論的にどう説明するか、そして、実験的にデータとしてどのように表すかが課題となるわけです。

しかし、理論的解析もそう簡単ではありません。
難しい話ですが、オーディオの周波数帯では、通常の解析で設定される単純化した条件では、有効な結果は得られません。

そこで、波動方程式を解くときの境界条件をより現実に近い条件に設定して解くことで、やっと結果が出せるようになりました。
これからも、「なぜかわからないけれど、実際に使うと効果があるね」といったところを、理論的(科学的)にきちんと説明してゆきたいですね。

※西村教授よりいただいた「KRYNAとの出会いから現在に至るまで」より一部抜粋、編集したものを掲載しています。

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