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ホログラフィックサウンド技術とは? ⓪-1

HGSとはどんな技術?

 KRYNAの製品に慣れ親しんでおられる方には今更ですが、HGS(ホログラフィックサウンド)についてまずお話します。
ホログラフィーはよくご存じのように、二次元の写真でも、光の強度情報に加えて位相情報も書き込むことで、3次元の反射光を作り出す画像記録方法です。ですから、その写真を見ると平面写真ではなく立体像として見ることが出来ます。
その技術をオーディオの世界で実現しようとするのがHGSです。通常、音源から発した音の情報は空間を伝播し、反射などの影響を受けたのち受聴者もしくはマイクに到達します。図1に示すように、複数の音源があれば、各音源からの音が届き、人間の聴覚処理により、音源を識別分離し各音源の方向と距離が認識されます。この音は3次元の立体空間情報を持った状態で聞くことが出来ているわけで、時間経過を入れれば4次元の情報になります。

図1 合成された楽器音を受聴(楽器の方向と距離を認識)


 一方、マイクに収録された音は、こうした3次元情報が統合されて、図2に示すように、マイク出力電圧の時間変動波形に変換されます。つまり、3次元情報が1次元情報に圧縮される(畳み込まれる(コンボリュージョン))訳です。この時、3次元情報が失われているかのように思われますが、合成変換された形で残っているわけです。(制御などで使うラプラス変換の様な一種の積分変換が行われていると考えると良いかもしれません)

図2 合成された楽器音の信号(電圧の時間変動波形:1次元)

これを正確に元に戻せば、図3のような針孔写真機の映像のように、ある程度立体的に再現できるはずです。
通常、モノラル信号を左右二つのスピーカで再生すると左右のスピーカの中央に音像が認識されるはずです。しかし、HGS技術による再生では、モノラル信号と標記されている録音源を左右二つのスピーカで再生すると、楽器の音像が中央に集中するのでなく、右寄り、左寄りさらに前後・上下に分離して聞くことが出来、あたかもステレオ録音のような再生が可能となります。単純な考え方ですが、マイクの位置をスピーカに置き換えると、マイクの点を通る音がスピーカから出されることとなり、そこを通して壁の向こうの音場を聞いている状況になります。図3の針孔写真機の映像のようなイメージを持っていただくと分かり易いでしょう。さらにステレオの場合マイクが二本あり、1次元の情報が2つあることとなります。左右の音響信号は微妙に変化し、その変化には、マイクに対する各音源方向と距離が畳み込まれているわけです。

図3 針孔写真機(上下左右反転した映像)


 ここで、人間の聴覚について少し見ておきましょう。
聴覚は、耳道に入った音波を鼓膜により振動に変換し、蝸牛の入り口(前庭窓)に伝送します。蝸牛内の基底膜に生えている繊毛がリンパ液と特定の周波数の振動に対して共振して周波数分析を行うと同時に、振れの頻度(大きさ)に応じた神経パルスを発生し、結局、時間周波数分析をした結果を神経パルス信号として脳に送るわけです。この時、同時に左右の蝸牛からの信号の時間差も検出し、位相の変化を見ています。方向感は、この位相差と左右の音の大きさの両方の情報をもとに認識(大脳の処理による認識)しているようです。

 さらに、ステレオ再生では、二つのスピーカ(音源)から放射される音(この音は図4に示すように同じ音源からの音を別の位置で取り込むことで生じる大きさと位相のずれをもった信号)を左右の耳で聞いて分析・合成して方向と距離感を認識しています。したがって、各信号の正確性が重要になってきます。針孔写真機の針孔を二つにしてその針孔から二つの目で覗いている状況です。もやがかかったり蜃気楼のように揺らいだりすると立体的な映像が損なわれますね。つまり、ステレオ再生で、大きさや位相を正しく再生することで、HGSが実現できる訳です。特に位相情報は重要であるにもかかわらず、雑音の混入で乱されやすく、ランダムに乱されると音像がぼける結果となるわけです。

図4 合成された信号(ステレオ)(電圧の時間変動波形:1次元×2)

この状況を図示したのが図5です。図5-aは通常の楽器音の受聴で、楽器の音が合成されて受聴者に届きます。
楽器音の途中にマイクを置き収録します。マイクは マイクの位置で合成された楽器音を収録しますが、マイクには各マイクの位置に対する各楽器の方向と距離の情報が反映された音が届きますので、マイクの電気出力信号にもこの情報が畳み込まれた状態で反映されます。次に、このマイクの位置にスピーカを置いて収録した信号を再生すると、マイクの位置を通る合成音が、各スピーカから発せられ、まるで針孔写真機の映像のように音が再現されます。

その状況をまとめたのが図6で、あたかもマイクもスピーカもないかのように受聴者は楽器の音を聞くことが出来るというわけです。以上は理想的な話ですが、録音された音を忠実に再生できるなら可能な話ではないでしょうか?一方、音色は倍音成分の位相には影響しませんから、位相がずれていても気になりません(ダイアナ・ドイチュ:音楽の心理学、chap.2.1)。そういった意味で、HGSを目指す場合、雑音対策(位相の変化を最小限に抑える)が非常に重要になるといえます。

図6 合成された楽器音を受聴(楽器の方向と距離を認識)

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